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【法学部研究懇談会】 「なぜ、人は自白するのか(自分に不利益な事実を認めるのか)」報告

2017年2月22日(木)13:30~17:00、名古屋キャンパスM2001会議室において、 本学法科大学院の堀貴博教授(派遣検察官)が、 「なぜ、人は自白するのか(自分に不利益な事実を認めるのか)」 というテーマで報告しました。

 

当日は本学の教員・学生ばかりでなく、他大学の学生も参加し、 活発な議論が行われました。 報告内容については、三井夢乃さん(法学部2年) のレポートをご一読ください。 なお、本講演は愛知大学法経論集第215号に掲載予定です。

 

法学部研究委員 岡田健太郎

 

学生によるレポート

「なぜ、人は自白するのか(自分に不利益な事実を認めるのか)」

三井 夢乃

(愛知大学法学部2年 2018年2月時点)

 

法律の実務的な視点から、自白の原因、及びその問題点についての報告である。

 

一般的に自白とは犯罪事実の全部または重要な事実を認める供述と言われている。 警察等の捜査機関は捜査や取調べを行う。 その際、犯罪事実を否認する被疑者に対して厳しい追及が行われることはしばしばある。 証拠の収集について、 目撃者など参考人からの聴取・防犯カメラの映像等客観的なものが重要であるという事に全く異論はない。 しかし犯罪は秘密裏に行われることが通常であるため証拠の乏しい事件が少なくないなか、 犯人はその事件について最もよく知る人物ということになる。 そのため犯人と疑われる者の取調べは、事件の真相を見極めるうえで最も重要な捜査である。 実は、捜査をするうえで被疑者が自白をするのは少なくない。 では、なぜ人は自白をするのか。 そこには、罪を犯したことに対しての後悔や反省、嘘をつくことに対する罪悪感、 否認しても通用しないという諦めの気持ち、認めれば情状がよくなるかもしれない、 被害者に対しての謝罪の気持ち等の様々な理由から自白をする。 しかし驚くことに、罪を犯していない者も自白をするケースがある。

 

自白は証拠の女王とよばれている。 人が嘘をつく際、自身にとって不利益な事実を認めることはないため、その信用性が高く評価される。 そこで、自白を得るために拷問が行われてきた。 法的に拷問が禁止された後も、自白を獲得するために暴行や脅迫が行われたこともあった。 たしかに、人が嘘をついてまで自分に不利益な事実を認めることは、特段の事情がない限り考えがたい。 しかし、この経験則は「任意に供述する場合は」であり、供述を強制されるときはこの経験則は成立しない。 憲法及び刑事訴訟法319条1項、322条1項は自己に不利益な供述の強要を禁止し、 任意でされたものでないと疑われる不利益な供述を証拠としない。 このような供述には虚偽の供述の恐れがあるからである。 しかし残念ながら、足利事件や氷見事件のように、虚偽自白によって有罪判決に至ってしまった事件が存在する。

 

自白法則の理論的根拠として、虚偽排除説、人権擁護説、違法排除説、折衷説 (虚偽排除説と人権擁護説を総合する説)がある。 虚偽排除説は任意にされたものでない疑いのある自白は虚偽の恐れがあるのでそれを防止するために排除されるべきという説である。 虚偽の可能性というのは類型的判断であり実際に自白が虚偽であったという事でなく、 自白がなされたときに虚偽自白を招く危険性があったかどうかを問題とする。 人権擁護説は、任意にされたものでない疑いのある自白は、 黙秘権や供述の自由を侵害して得られた自白であるので、 そのような権利を守るために排除するべきだという説である。 この説では、心理的圧迫があったかどうかを問題とする。 違法排除説は、 任意にされたものでない疑いのある自白は違法な手続きにより得られたものとして排除されるという説である。 これに関して判例は、「約束による自白」や「偽計による自白」に関する事件から、 虚偽排除説を用いていることが分かる。

 

かつては、録音・録画をしたうえでの取調べは行われていなかった。 そして、被告人は嘘をつく可能性があるとの理由から捜査官の供述が信用されていた。 しかし現在では録音・録画の導入がなされており、 聴取の際にこれを行わないと検察側の不利となる傾向がある。 導入された当初は、まだ慣れていないという理由で抵抗したり、 録音・録画されたビデオを見た人に不当な追及をしていると思われるので嫌だという現場の捜査官の声もあった。 また、録音・録画されていると思うと被疑者は緊張して慎重な発言になるかもしれないという懸念もあった。 しかし、客観的に判断しやすくなり、 供述の信用性を疑われることがなくなってきたという裁判上の利点があった。

 

今年6月から合意制度が開始される予定である。 内容は、自己の刑事事件に一定の利益を与える約束をする代わりに、 別の刑事事件に協力してもらおう、ということである。 組織的犯罪が対象となっており、例を挙げると振り込め詐欺がある。 振り込め詐欺は、実行犯が上の位の者からの指示を受けて行っていることが多い。 そのため、共犯者などを言ってもらえるように、捜査機関の取調べに真実の供述をし、 捜査機関に必要な協力をすれば、検察官が不起訴処分や求刑の軽減などをすることを約束する、 といったものである。 この制度が検察官の被疑者・被告人に対する求刑の軽減を求めることと引き換えに事件の共犯者を話すという点で、 先程述べた虚偽自白と似ていないか、 だとすれば証拠能力が否定されるのではないかとも考えられる。 しかし、合意制度においては、合意の成立には弁護人の同意が必要であるため、虚偽自白となる恐れはない。

 

次に、取調べにおける4つの自白の方法について。 それは、任意かつ真実の自白、強制かつ真実の自白、任意かつ虚偽の自白、強制かつ虚偽の自白である。 当然、捜査のうえで最も好ましいのは任意かつ真実の自白である。 そのようなものにするためには、オープンな質問からクローズな質問をする。 例えば、まず、被疑者に自由に語らせるために「どうやって殺したか」というような大きな範囲での質問をする。 次に被疑者の話に出てきた凶器や殺害方法に選択肢を設けるなどといったような、 より詳細で答えにくい質問をする。 大抵、真実を知っている人が否認するのは罪を免れるかもしれないと思っているため、 被疑者による「罪を免れるかもしれない」 という期待を打ち砕くために本当に決定的な証拠がある場合にこれを取調べの際に出すことがある。

 

逮捕された当初は、恐怖、不安、言い逃れできるかもしれない、 などと考えて事件について否認する人がいる。 しかし、もし本当に犯人だとすれば、嘘をつき続けることや否認し続けることはなかなか難しい。 もしかすると言い逃れできるかもしれないと期待する気持ちとは裏腹に、 嘘をつくことに後ろめたい気持ちをもつ人もおり、 自分は気づいていないだけでもしかしたら言い逃れできない決定的な証拠を捜査官が持っているかもしれない、 と不安になることもある。 そのため、自白は被疑者・被告人の罪の意識の軽減、厳しい追及、不安からの解放も意味する。 実際、自白した後にすっきりした顔をする人や謝罪の言葉を口にする人も多々いる。 最後に大事なこととして、 捜査官は被疑者が犯人である可能性が高いということを念頭に置いて取調べを行っている。 しかし、そのような意識を持ちながらもやはり心のどこかで「犯人ではないかもしれない」 と思うことも大切である。 犯人であると決めつけてしまうと、被疑者の言葉がきこえなくなり、 自分に都合の良い供述しか頭で受け入れられなくなってしまう。 その先には、足利事件や氷見事件のような悲劇がまた生まれてしまう。

 

報告者の堀教授(右側)とレポート作成者の三井さん(左側)

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